“〈どうにか命を落とさずに生還した男〉たちが、だれかにとっての〈いい夫、いいお父さん、いいおじいちゃん〉であるという事実を私は踏み躙りたいとは思いません。”
“ただし、昭和が遠ざかり、平成すら幕を下ろしたいまの日本で、どこかでだれかが結託して〈日本という国を国として成り立たせるために、言いかえれば、日本という国の輪郭を明確にする〉ために、あの戦争から帰ってこられなかった声のない人たちの声をさらに奪ってかれらが、妻や子どもや愛する恋人を守るために喜び勇んで憎き敵と闘い、桜の花びらのようにうつくしく舞い散った、という物語をこしらえようとしているのなら、死者らを正しく悼むためにも、それとは異なる、まったくべつの物語を、私たちは書き続けなければなりません。”
私とあなたのあいだ〜この国で生きるということ
【特別公開 第4回】かれらの居場所〜最終便 温又柔より
2021.08.15
https://webmedia.akashi.co.jp/posts/5193