まだ出会って日が浅いハドゥとくたそ
「バトハドゥさんは何か好きなものはありますか?次に来る時、お土産に獲ってきますよ。」
頭の上にピンと立つ白い耳をこちらに向けて、冒険者の女は俺に問いかけた。手には川魚。目線はそれに注がれている。彼女は慣れた様子で手際よく捌き、内臓を取り出して干物にする準備をしている。
それを眺めながら一服をしていたが、好きなものという言葉にはたと煙を吸う事を忘れる。俺の好物は何だったか。適当な相槌の後に続く言葉が無く、少しして彼女の方からもう一度話しかけられる。
「遠慮してますか?」
「……いや。思いつかないだけだ。」
自分のつまらなさを突きつけられた気分になり、なるべく突き放すような語気を出す。
「じゃあ、それはどうですか。煙草。」
苛つきを感じて吸おうとしたパイプに、彼女の目が向く。薄桃色で、瞳孔は縦に割れている。好奇心に満ちた眼差しに、なんとなく気圧される。
その2
「俺の吸ってる葉は……、東方地域の葉だ。ここじゃ滅多に手に入らない。……あんた、いい加減、俺なんかに構うのはやめたらどうだ。」
その好奇心を満たしてやれるものは俺には無い。どうせそのうち飽きて疎遠になるのだから、俺を傷つける事なく放っておいて欲しい。ささやかな敵対心を込めて返事とする。
冒険者を視界の外に外し、煙をゆっくりと吸い込む。憤慨したければするがいい。そう思って身構えつつ、息を吐き出すが……。
「東方地域ならツテがあるので、探してみますよ。どこが産地か、教えてくれますか?」
意外な返答に、思わず冒険者に顔を向ける。どこぞの貿易商とでも付き合いがあるのか?とてもそうには見えない。
そうしてまじまじと顔を見つめたので、彼女とばっちり目が合ってしまった。その薄桃色の瞳は相変わらず好奇心に輝いていて、俺はつい、故郷の話をしてしまったのだ。