亡国のスパイ E1
それは本当にばかばかしいようなコメディで、観客はみんな大笑いしながら、舞台の上で歌う若者たちを見ていた。
僕も最初はそうだった。
軽妙な掛け合いと共に聞こえてくる、少し前に流行った、誰もが知っている曲。
でも僕は途中で、息をのんだ。
いつの間にか僕の目には、舞台の上にいたはずの4人の若者の姿は消えていた。
僕の目に映っていたのは、その曲を歌っている「彼」の姿だった。
彼は歌がうまくて、みなで飲んでいるときなんかに、よく歌いだした。
その曲も、あれはいったい何のパーティーだったか、そういうことは全然覚えていないのに、僕は彼の歌声だけはどうやらはっきりと覚えていたらしく。
でもその時僕の目に見えている彼は、そのパーティーの時の様子ではなく、なぜか最後に会った時の服装でステージの上にいるのだった。
僕は自分がいつの間にか笑うのをやめてしまったことに気づかないわけにいかなかった。
今やステージの上にいるのは、さっきまでやたらに中断し、ドタバタと言い合いが挟まって僕らを笑わせていた4人ではなく、あの日の彼なのだ。
そしてまるで、実際には言えなかった別れを告げるように、彼は僕をまっすぐに見つめながら、彼はその歌を最後まで歌い終えた。