そもそも私は物語性を重視しないので、物語なんですよ! ってこんなに推されなければ楽しく見れるんですけど、ホフマンの人生! よろこびとかなしみ! みたいに推されるから頑張って理解しようとするじゃん! 自分の失恋全部悪魔のせいでしたー、ってバカか! お前の人生は恋愛しかないのか!!!
オペラでは舟唄っていう有名な曲があって、この舟唄は何度もバレエ中にも登場します。
1幕は機械人形のオリンピアとの悲恋? マッドサイエンティストに騙されて機械娘と恋に落ちるけど機械娘は壊れちゃったよという話。周りの人たちは機械娘だってわかってるんだけど主人公だけ特殊なメガネのせいでわからなくされている。主人公が「僕の彼女です」ってみんなに誇らしく紹介すると、みんなたちが「マジで?」って顔で見る。地獄すぎる。人形壊れるとこよりつらい。境界性羞恥が高めパーソンにはいきなりの試練がキツすぎる。私はこの1幕だけでこの作品もう嫌です。
人形娘を演じた奥田さんは初演ファーストキャストで舞台は重ねていて、人形ぶりが板につきすぎてすごかったです。踊りは素晴らしいんだ。でも話がいやー!
この幻想の場が、ザ・クラシックバレエという様式美で本当に美しい。群舞がいて、ソリストがいて、主演の2人がグランパドドゥを踊ります。主演はもちろんアントニアとホフマン。ホフマンは音楽家でダンサーじゃないじゃん! でもいいのここはアントニアの夢だから。ホフマンはアントニアをサポートして達者に踊ります。
このグランパドドゥ、じつは欠けがある。グランパドドゥは
男女2人が踊るプロムナード(長め)
男性ソロ
女性ソロ
男女2人が踊るコーダ(短め。グランジュテとかの離れ技が入りがち)
という構成なのだが、男性ソロがないのです! いいのアントニアの夢だから!
実際には全幕通してのホフマン役の負担がきつすぎるためソロがはずされてんだと思いますが、ここでソロがないので、ホフマンって主役の割に存分に踊るシーンが少ないんだよねー。タイトルロールなんだからもうちょい踊らせて欲しかった。ほんとしょうがねえ演目だよな。
アントニアを演じた小野絢子さんは、体の弱い美少女のシーンも自在に踊るプリマバレリーナのシーンもお見事でした。小野さんは謎の演技力があって、踊らなくてもニュアンスを劇場に通しちゃうんだよね…小野アントニアは佇むだけで青春の思い出感がありました。
で、2幕そのものは美しいよね〜といつも私は満足して見る2幕なのだがー、今回はちょっと不満が残った。2幕ソリスト3人、ちょっと居残り勉強してほしい! 振付はちゃんと踊れてるんですけど、ほかのダンサーとの連携が取れていません。
同じ振付を踊れてるのにバラバラして見えて一体感がないのはどういうことでしょう。たんに振付を揃えろって話じゃなくて、アクセントの付け方とか、全体のモードとか、そういうのがちゃんと統御できてない気がした。
小野絢子御大が舞台にいるときは御大のご威光でパシッとしてるんだが、リードがないとダメっていうのはさあ…誰がリードか決めればいいのかね。
ソリストがこのていたらくでは4月のバヤデールが心配です。まさに群舞が主演としか言いようのない影の王国があるのでな! ちょっと反省会してほしい。
というわけで夢の国でホフマンと踊っていたアントニアですが、実際には催眠状態でミラクルと踊っていたのでした。ホフマン が止めに入りますがすでに遅く、アントニアは死に、ミラクルは逃げ去ってしまいます。アントニアのおとんは嘆きと怒りの中でホフマンを追い出します。
境界性羞恥ってなんだ。共感性羞恥でした。
さて3幕。アントニアを失ったホフマンはフィレンツェで信仰と隠遁の生活を送っています。隠遁生活なのになんでフィレンツェみたいな派手で洒落臭い街を選んでるのか謎なんですけど、もっとモッサリした街、ドイツにいくらでもありそうだけどね。でもフィレンツェなんです。
派手な街で地味に暮らすホフマンは、ある日、知らないサロンに迷い込みます。異教徒めいた半裸の男たちと妖艶な踊り子たちがイチャイチャしている謎のサロンの主人はキラーカーンみたいななりの男性です。キラーカーンは立ち去ろうとするホフマンを押し留めて、サロンでいちばん美しい女ジュリエッタと対面させます。アントニアへの操立てと信仰をたてにホフマンはジュリエッタを遠ざけようとしますが、蠱惑的な彼女に魅了されてしまいます。
ジュリエッタに支配され翻弄され踊り続けるうち、ホフマンは自分の影が鏡に映らないことに気づいて愕然とします。じつはキラーカーンもジュリエッタもこの世の人ではなく、ホフマンの魂を奪おうとしていたのでした。ホフマンは手近の鞭(そう、鞭)の持ち手の部分を使って十字架をつくって掲げ、人外たちを退けます。
それにしても鞭、鞭かあ。
なんで鞭なのかわからんよなー。
私はホフマン物語ではこの3幕が今までいちばん退屈で、キャストによっては居眠りしちゃう感じでした。だって意味がわかんないんだもん。なんでしょぼくれた初老のおっさんひとりの魂を取るのに絶世の美女まで動員しなきゃいけないんでしょう。納得がいかない。
そもそもホフマン物語って、悪魔がなんでそんなにホフマン が好きなのかわかんないんですよねー。1幕のマッドサイエンティスト、2幕のミラクル、3幕のキラーカーン(違う)全員同じ人(悪魔)で、ホフマンにストーキングしてんだけども、ホフマン自身が自らの心情を踊るシーンがあまりないので、キャラクターが立たず、なぜホフマン がそんなに悪魔に狙われ続けるのか納得がいかず、ストーリーの必然性も感じられないのです。
ただ、25日の回では、絶世の美女ジュリエッタを演じた米沢唯さんの踊りがとにかく素晴らしく、あっお話なんてどうでも良かったですね! 唯ちゃん素晴らしいーー!! ってなったので結果的には満足でした。こんな役、唯ちゃんクラスの大プリンシパルじゃなきゃ成立しないですよね…
米沢唯さんは、若いころはいわゆるテクニックが強いと言われた人で、現状日本で主演するクラスの女性バレエダンサーとしてはナンバーワンのテクニシャンだと思います。あまりにも簡単そうに難しいことをやるので、難しいのがわからない。他のダンサーが同じことをできないのを見て、ああー唯ちゃんの超絶技巧だったか! とわかるかんじ。
若いころは心情面の表現に課題があると言われ続けてきましたが、吉田都さんが芸術監督になって以来進境いちじるしく、演劇的な演技ではなく振付を精密に踊り切ることで大きな感興を生み出すようになりました。
ホフマン物語のジュリエッタは3回目かな? 以前にも見たことがあるのですが、比べ物にならないくらいの進化でした。出てきた瞬間にまさに女王。舞台全体くらいに大きく見えます。いやまじで。
米沢唯さんは日本人離れしたハイパーテクニックの持ち主であるために、彼女がテクニックを全開にして踊れる男性パートナーになかなか恵まれてきませんでした。全開だったのってたまにロイヤルのムンタギロフと踊るくらい?
今回ホフマンを演じた奥村さんは新国立の男性ダンサー随一のテクニックの持ち主です。他の男性プリンシパルと比較しても上手い。その奥村さんに、米沢唯全開の踊りがぶつかります。奥村さんしんどそうだった!
流石の奥村さんも唯ちゃんのエンジン全開フルパワーは受け止めるのが精一杯なかんじ! ときどきグラついて見えましたが、だがそこがいい。ホフマン物語の3幕は、ホフマン が圧倒的なジュリエッタの魅力に支配され、苦しみながら跳ね除ける場面だからです。
鞭の持ち手で作った十字架であっさり退散する悪魔くんたち、それってどうなのー? っていう展開でしたが、いいのです。ストーリーがヘナヘナでもいい。私は全開の米沢唯が見られたので満足です。
唯ちゃんは去年あたりから他流試合というかコンテンポラリーの座組などに参加していて、本当に素晴らしくなり続けています。いまが絶頂期な気もするので、バレエとかにご興味がある方は米沢唯さん見てください。もちろん小野絢子さんも見てほしい。
身体芸術はどうしても演者の年齢とかで動きが変わってきますし、とくにクラシックバレエは正しいテクニックが決まっているので、年齢の影響を大きく受けます。永遠に見ていたいけど、できないんですよね…
絢子さんも唯ちゃんもコンテンポラリーもすごいし、コンテンポラリーは年齢を重ねると表現が深まっていくので、ふたりのためのレパートリーも欲しいところだなー。
2幕はザ・クラシックバレエという踊り。ホフマン物語はヒロインが交代するたびに趣向が変わるんだよね。1幕がコッペリア、2幕はジゼルとかライモンダ風、3幕がシェヘラザードとかみたいなかんじ。で、2幕、オペラだと歌手志望、バレエだとダンサー志望にされているアントニアがヒロイン。しかし体が弱すぎて、踊ると(オペラだと歌うと)死ぬと言われています。アントニアのおとんはピアニストで、青年ホフマンの師匠である。ホフマンがなんで音楽家なの、って思ったら、作者ホフマン本人が音楽家もやってたんだって。本業は司法官、副業で文筆にいそしんでいましたが、司法官をクビになった時期に指揮者として食っていたそうです。なんなのそのハイスペックのマルチタレントぶり。現代うまれならワイドショーのコメンテーターで荒稼ぎできたんじゃないの。
というわけで音楽家の娘で踊れないアントニアとホフマンは慕いあう仲です。
アントニアを溺愛するおとんは娘のために有名な医者を連れてきます。その名もドクターミラクル。その名前ダメじゃん。絶対カルトか代替療法じゃん。
超うさんくさいドクターミラクルが、うさんくさい技をアントニアにかける! なんと催眠術でした〜! 催眠状態になったアントニアは、夢の中でバレリーナになって踊ります。