島民カラオケ大会を見学していたら、ひとり年配の御婦人が目に止まった。いや、正しくは耳に止まり目が行き、気がついたら目と耳の両方で魅せられていたのだった。
小さなその御婦人は、品の良い着物に足許は足袋と草履、髪もきれいに上げてステージに佇んでおられた。そして音の強弱の細やかなコントロール、伸びのある長音部、上品なビブラートをぬかることなく歌の隅々にまで行き渡らせていた。かといって間違えたらいけないみたいな緊張感を、こちらに窺わせることもない。ただ軽やかに伸びやかに、演歌を歌い上げていらっしゃった。
いやいや、大会といってもみなで競うようなものでもなく、ただ順番に自分の歌を披露するだけの催しだ。ちびっこなんかはかっこいい衣装を親御さんに誂えてもらって、Ado の『唱』に合わせて踊ってたりする。そういう中で、彼女は特別に光っていたのだった。
きっとこの余興のために、何か月も重点的に演目を練習してきたのだろう。着物だって、当日の気温や天候に合わせて候補をいくつか用意し、それがようやく当日決まれば、帯をどうする、帯留めはこれ、草履も変わるし髪型も変わる。朝から美容院と着付けでてんてこ舞いだったに違いない。家族もそれに付き合ったりして、おばあちゃんの晴れ舞台の手助けをする。