『フルーツサンド』
三井サンはご両親の躾が厳しかったのか、ああ見えてご飯の食べ方が綺麗だ。グレて不良っぽい所作を身につけても箸の持ち方や魚の食べ方みたいなところに育ちの良さが見え隠れする。しかしそんな三井サンにも食べるのが下手なものがある。シュークリームやエクレアだ。なぜか大抵中身をはみ出させてしまう。そして俺は今そこに新しいものが加わる瞬間に立ち会っている。
「うわぁ、三井サン、いちごはみ出してるよ?」
「んんっ!」
三井サンは俺のその言葉に慌てていちごを抑えている。この人は今フルーツサンドにハマっているそうなのだが一口目で案の定生クリームと共にいちごが押し出されてこぼれそうになっている。
「中途半端に齧るからだよ。こんなのは思い切り良くこうガッと食べちゃえば手も汚さないよ?」
俺はそう言いながらお手本とばかりに何種類かの果物が挟まれたやつをガブガブと食べきってみせた。
「そんなに急いで食っちまったら果物と生クリームの絶妙なハーモニーを味わえないだろーが。フルーツサンドに謝れ。」
三井サンはどこで覚えてきたのか安っぽい食レポみたいなことを言う。いやフルーツサンドなんてそんなに味わうもんじゃないだろ、これはどちらかと言うと飲み物だ。
まぁ布団の中でガッツリ思い出してまたひとつ恥ずかしい思い出を作ってしまうのはもう数時間先の話だ。