『フルーツサンド』

 三井サンはご両親の躾が厳しかったのか、ああ見えてご飯の食べ方が綺麗だ。グレて不良っぽい所作を身につけても箸の持ち方や魚の食べ方みたいなところに育ちの良さが見え隠れする。しかしそんな三井サンにも食べるのが下手なものがある。シュークリームやエクレアだ。なぜか大抵中身をはみ出させてしまう。そして俺は今そこに新しいものが加わる瞬間に立ち会っている。
「うわぁ、三井サン、いちごはみ出してるよ?」
「んんっ!」
 三井サンは俺のその言葉に慌てていちごを抑えている。この人は今フルーツサンドにハマっているそうなのだが一口目で案の定生クリームと共にいちごが押し出されてこぼれそうになっている。
「中途半端に齧るからだよ。こんなのは思い切り良くこうガッと食べちゃえば手も汚さないよ?」
 俺はそう言いながらお手本とばかりに何種類かの果物が挟まれたやつをガブガブと食べきってみせた。
「そんなに急いで食っちまったら果物と生クリームの絶妙なハーモニーを味わえないだろーが。フルーツサンドに謝れ。」
 三井サンはどこで覚えてきたのか安っぽい食レポみたいなことを言う。いやフルーツサンドなんてそんなに味わうもんじゃないだろ、これはどちらかと言うと飲み物だ。

「これ一口サイズに切ってくれたら食べやすいのにな。」
「上品かよ?!お嬢様か、アンタ?」
 でっけー口してるくせに大口開けて食べるのが下手とか可愛い…何より溢れそうないちごを舌で受け止めようとしたり、口開けたままどこから齧るかな迷ったり、エロすぎない?
 いやいやいや、ちょっと待て!なに今の俺の思考?落ち着け俺、いま目の前にいるのは三井サンだぞ?!可愛いとかエロいとかおかしいだろ!
 俺は三井サンには気づかれないようにスーッと深呼吸してから変な想像を追い出して、食べ物のことに集中した。
「アンタ、ハンバーガーも食べるの下手でしょ?」
 よしよし、普通の感じで喋れてるぞ俺。
「なんでわかんだよ。」
「フルーツサンドよりハンバーガーの方がハードル高いじゃん。」
「そういや鉄男はハンバーガー溢さねーで食ってたなぁ。」
「出たよ、鉄男!昔の男の話今ここでするかなー?!」
「その表現やめろ。なんか潰してから食うといいらしいけど、俺はできねーわ。」
 このお上品な元ヤンはそう言いながら指についてた生クリームを舐めた。
「舐めるなバカ!」
 俺の咄嗟のセリフに、馬鹿っていう方が馬鹿なんだよと返される。その後はいつものような子供の口喧嘩みたいな応酬が続き、この時の俺の変な想像はすっかり忘れ去ることができた。
 

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 まぁ布団の中でガッツリ思い出してまたひとつ恥ずかしい思い出を作ってしまうのはもう数時間先の話だ。

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