「アンタよくそう普通に話しかけてこれるね?」
俺はなるだけ嫌味に聞こえないように気を使ったけれどどう考えても嫌味にしかならない。
「…悪い、と思うが他の奴に声かけるよりは、まだ頼みやすい。」
あれだけのことをされて許せるかといえば簡単ではないが、皆にそう思われているなかこうしてここに立つのは相当な勇気が必要だろう。頭は下げたが許しは請わなかったことに三井サンも簡単に許してもらおうとは考えていないのだと感じた。まっすぐ見てくる目にそういう決意を勝手に読み取って困惑する。短くなった髪は三井サンの顔を何も隠してくれない。
ストレッチを手伝いながら黙っているのもあれなのでポツリポツリと会話をする。膝は大丈夫なのかとか歯はどうするのかとか。そんな俺たちに練習しながらみんながチラチラ視線を向けてくる。また険悪な雰囲気にならないか心配してるのか、それとも案外仲良くしてるように見えるのだろうか。その視線に三井サンが緊張してるのが伝わってくる。
俺は初めてこの人にあった日のことを思い出していた。初対面の無愛想な少年に気さくに声をかけて綺麗なシュートを見せつけた自信に満ちた爽やかな顔。あれがこの人の本質なら。
「まぁさ、色々簡単じゃないけどさ。」
ほんの少し背中を押してやるくらいしてやってもいいと思って俺は言った。
「ここにいるのはバスケット馬鹿ばっかりなんだから、アンタの技術を見せつけたら納得すると思うよ?」
驚いた顔で俺を見た三井サンは、
「そうだな。」
と言ってやっと少し表情を緩めた。
その後、さして日をおかない間に三井サンはすっかりバスケ部に馴染みきり、先輩面すらするようになったので、コミュ強の陽キャの恐ろしさを俺は知ることになる。
(終)