いつもならここで終わりなのだがアンナはもう一つ、今度はもう少し洒落た包みのチョコを出してきて、
「これはね、みっちゃんに渡して欲しいんだ。」などと言った。
みっちゃんとは三井サンのことで一度うちにやってきたことがある三井サンにアンナは秒で懐いてみっちゃん呼びが定着している。
三井サンと俺との間にあったあれこれはまだ家族には話していないのでアンナにとって三井サンは気さくでイケメンの、兄のバスケ部の先輩という立場の人だ。
「え、ちょっアンナ、まさかお前三井サンのことが?!」
好きなの、とはなぜか言葉にできなかった。だが妹は即座に「ちがうよ〜。」と否定してきた。どうやら友達が本命に渡すためのチョコを選ぶのに同行してお店で眺めているうちにその雰囲気に当てられて良い感じの本命チョコを買ってしまったという。買ったはいいが、渡す相手はいない。俺に渡すのは勿体無いし自分で食べるのもちょっと違う。
「でね、みっちゃんならあたしも『本命チョコあげちゃったー』って気分も味わえるし、でも本気にはしないで受け取ってくれるでしょ?」ちょうど良い感じの相手なんだよねー、みっちゃん。と実に気楽な返事が返ってきたのだった。
そしてそのチョコを三井サンにいざ渡そうとした時にこの流れをどうまとめて説明したものかと悩んだ結果、なんか俺が告白しそうな雰囲気を醸し出してしまったわけだ。
「いや、いやいやいや、違いますよ!アンナからの義理の本命チョコっす!」
俺が慌てて昨日のこと意を説明すると、
「そっかー、アンナちゃんからか。」
三井サンは残念そうな顔をちょっとしてから「ありがとう。」と言ってチョコを受け取った。
はい、ちょっと待って。残念そうなって何?俺が勝手にそう思ったんだけど、ここで残念がる何かがありましたっけ?
どうも俺は三井サンのことになるとどこかおかしい。おかしい理由にうっすら気が付いてはいるがまだ目を背けていたい。
もうすぐ三井サンは卒業しちゃうけど…。
「さ、部活部活!練習しましょ!」俺はいつものようになんでもない顔でそう切り替えた。そもそも推薦で大学入学をもぎ取った三井サンが卒業までの忙しい中で練習に顔を出してくれているのだ。時間を無駄にはできない。
「おーし、練習練習!この三井のスリーポイントシュートの極意を早く習得してもらわんとな!」
三井サンもいつもの調子でそう言ったかと思うと、
「三月一四日はお返ししに行くから、しっかり予定はあけとけよ!」
にかっと眩しい笑顔を俺に向けた。