①宇野常寛『砂漠と異人たち』
宇野氏が提唱する「アラビアのロレンス問題」。なぜ今アラビアのロレンス?と思って読み始めると、映画の「アラビアのロレンス」の描かれ方と、実際のT.H.ロレンスという実在した人物とのギャップ、そして、アラビアのロレンスが生まれた背景を読み解くことで、現代のヤバさ(経済活動が熟しきって植民地支配へとシフトした第一次世界大戦時と限界を迎えた資本主義が米でのトランプの出現やブレグジット、ロシアのウクライナ侵攻などの大きな物語からネットに蔓延る卑しさという小さな物語にも通じる現代の類似性)が浮かび上がるというもので、それをただ問題として提唱するだけでなく、ならばどうするか?を語り、また未来を語るために村上春樹と吉本隆明を引くことでしっかりと過去を検証し、不毛なゲームから降りようぜ!と呼びかける希望(と絶望)の一冊。
戦争が遠い過去になった時代に広く読まれた村上春樹(革命を起こせなかった世代)の作品は、結局は女性を踏みつけにすることで壁を抜けたり、新しい世界と接続できたりという、俗世から距離をおいているように見えて家父長制から逃れられない「男」を繰り返し描いてきた、というようなことが書かれていて、男社会を内面化してその中でうまく楽しくやろうとしてた自分にもグサグサ来るものでした。
→高島氏が直面する絶望の数々は世代が上の我々が放置してきた故に今、氏を苦しめるものとしての装置となってしまったと反省するところもあるし、その絶望を描き出すことで誰かの(私の)孤立に明かりを灯すものにもなる。まずは死なずに生き延びること、という著者の訴えはシンプルで強い。
引用される書籍や文献、専門用語を知らなくても注釈がしっかり書かれているのと、章ごとにブックガイドもあって、私のような素人でも読みやすい。世の中はどんどんきな臭くなって、日本の政治も相当やばい。とはいえ政治運動に抵抗があったり、デモに行ったりしたいけど余裕がない、というひともいるだろうと思う。あと「自分がそのことを語ってもいいのだろうか」とか「自分が参加してもいいのだろうか」とか。
そんな人は是非本書で、どこにいてどんな状態でも革命は起こせるという著者の檄文のような文章と「生きていてほしい」と願う真摯な祈りに触れてほしい。私が私という個であることが第一歩なんだと思う。
※T.E.ロレンスの誤り