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『サルガッソーの広い海』のジーン・リースが植民地出身なんだけど、『あいつらのジャズ』が本当に良くてね。なにも確立できず奪われていくアイデンティティを表現している。
  ………………

 手紙を読んでわたしは泣いてしまう。だって、あの歌はわたしの唯一の財産だったのだから。わたしにはどこにも行き場がないし、そういう場所を手に入れるお金もない。また、手に入れたいとも思わない。
 でも、刑務所で歌っていたあの女は、わたしに向って、わたしのために歌っていたのだ。わたしが刑務所にいたのは、それが運命だったからだ。あの歌を聴いたのも運命だった…それはまちがいない。
 今では彼らが変な歌にしてしまっても気にならない。他の歌と同じように、どうせわたしからは取りあげられてしまうのだ。みんな取りあげられてしまって、わたしには何ももらえないのだ。
 けれどもわたしは、みんなくだらない話だと思いなおす。たとえ彼らがあの歌をトランペットで吹いたって、正確に、わたしの望みどおりに演奏してくれたって…どんな壁だってかんたんに崩れはしないのだ。「それならジャズだと言わせておけ」とわたしは思う。「ちがう歌のままにさせておけ。だからと言って、わたしの聴いた歌が変わるわけではない」
 わたしはもらったお金でダスティ・ピンクのドレスを買う。
 

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