そして私もまた、彼女の魅力に取り憑かれてしまった。
絵の中の乙女に、懸想してしまったのである。
それからは毎日、両親の目を盗んで彼女の姿を眺めた。薄い唇を引き結んだその静かな表情は、私の心情に優しく寄り添ってくれるように思われた。
家のことを顧みず、遊び歩くだけの父。
父の爛れた女性問題に金切り声を上げてばかりの母。
血の繋がった彼らよりも、絵の中の彼女のほうがずっと、私の心に近かった。
この女性は今、どうしているのだろうか。少なくとも私が生まれてからは、一度もこの屋敷に来ていないはず。こんな美人、ひと目見れば頭から消えないはずだ。となれば、父に愛想を尽かして去ってしまったのだろうか。それでいい、とは思うけれど、一方で至極残念にも思えた。
どうか生きていてほしい。父の手も母の声も届かない場所で。この絵を見る度、私はそう祈らずにいられないのだ。