よく、わからない。
けれどなんだかいてもたってもいられなくて、清光は執務室を辞し、とある場所へと向かった。
この本丸二振り目の、一文字則宗。
復刻慶応甲府にて、報酬用に励起された個体。
清光にとって、他の何物にも代えがたい恋刀。
このふわふわとした気持ちを共有したい、その一心で。
則宗の部屋へと続く、縁側の角を曲がった途端、
ひら、と。
白い何かが横切って、清光はまばたきした。
「あ…」
見上げれば春、枝いっぱいに鞠のような花束をいくつも咲かせた桜が、あるがなしかの風に吹かれてその花弁を散らしていた。
「おお、坊主」
果たして部屋の主は、ちょうどこちらに手を伸ばすように張り出した枝、そのすぐ下の縁側に腰掛けていた。
「坊主も一緒にどうだ」
「どうって…何を」
「なに、花見だよ」
にこにこと微笑みながら、則宗が手招く。戸惑いながらも、清光はその隣に腰を下ろした。
則宗の肩が震えている。うははは!と今日いちばんの笑い声が飛び出して、それでようやく清光は、今日の則宗がいつもより饒舌で、いつもより落ち着きがなかったことに気が付いた。
則宗もまた、春に心攫われているのだ。
「なぁんだ」
俺だけじゃなかったのか。
途端になんだか、安心した。
「坊主?」
「ん…なんでもない」
ふたりをあたためる日差しまでもが、微笑んでいる気がする。
清光はもう少しだけ、則宗に身を寄せた。
このあたたかな熱を、分かち合いたい。
「んん…」
「なんだ、眠いのか?」
からかうような声音で、けれど則宗の瞳もとろんとしている。
「ちょっとだけ」
「うん、」
ごろりとふたりして横になる。
視界は花曇り、ほのかに赤を忍ばせた爛漫が、はらはらとそのかけらを零している。
ちょうど目の前に落ちてきたそれを掴みしめて、清光は胸に抱いた。
春はなんだか、そわそわする。
だけどぽかぽか、あったかくて。
則宗といれば俺は、大丈夫になるんだ。
すぅすぅと聞こえてきた寝息に微笑んで、清光もまた、まぶたを閉じた。