『ポスト資本主義の欲望』(大橋完太郎訳) p.48-49より〈左派メランコリー〉についての注釈
左派が参照するウェンディ・ブラウンのもうひとつの重要な論考は「傷ついた愛着(Wounded Attachment)」です。「傷ついた愛着」は、今日の左翼の世界の緒側面を高いレベルで予言しています。ブラウンは「傷ついた愛着」内でニーチェを引用し、傷との関係でアイデンティティを定義するような仕方によって、ある種の左翼的欲望が動員されたと言い、その行程を示しています。左派が言うには、道徳主義は、
弱者の反動的な態度の支えとなるような感情を与える。弱者とは、「強者との対立において自らを定義する者たち」のことを指す。社会主義者による社会建設という前向きな計画が近年消滅するのにともない、左派的説教は、損傷や失敗、被害者であることへの投資額を増やすことによって、その活力を獲得してきた。権力が容赦なく支配的なものとなったとき、権力は左派がそこから遠ざからねばならないようなものとなる。そうしなければ、吸収されるか、あるいは妥協することになる。
つまり、ここで述べられているのは、権力それ自体が病理である、という考えです。権力の保持は圧政と切り離せない、したがって、傷つけられた惨めな状態になる方がマシだ、というわけです。