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『仮面の米国』(1932、マーヴィン・ルロイ)

名作でしたね。ポール・ムニが素晴らしい。

南部の州で行われていた囚人に対する強制労働刑の過酷な実態を告発するという内容で、実際に精度の改善に影響与えたとか。
プレコード時代の映画なので、物語も描写も生々しくていいし、脱獄ものアクションとしても面白い。カーチェイスなんかもすごい。
でもなんといってもいいのが主演のポール・ムニで、基本真面目で善良な主人公があまりにも理不尽な扱いを受けて段々雰囲気が変わっていく。それであのラストシーン。ああああってなりますね。
話は、第一次大戦で工兵隊員だった主人公が家に帰ってくるところから始まるんですけど、30年代から50年代の米ってどんだけ帰還兵の映画を作ってたんでしょうね。この映画でも最初の方の主人公の行動は戦争トラウマの影響を受けているのがはっきり出ているし。

DVD Boxサスペンス映画 コレクション 名優が演じる野望の世界
で見ました。アマプラ見放題にも入ってますね。

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このDVD Box、最初の3本を脱獄もの映画で揃えてきましたね。適当に選んでパッケージしてるんじゃないみたいです。

あと、その囚人の強制労働キャンプみたいなところ、黒人白人が半々ぐらいいるんですけど(ストーリーに絡んでくる黒人は一人だけ)、寝場所とか食事は人種で分離されてる。事務所に黒板があって、囚人の人数がチョークで書いてあって、今日は一人死んだから人数を消して書き直す、なんていうところがあるんですけどそこでも人数はホワイト何人ニグロ何人って書いてあるんですよね。そういうところを含めて隠さずリアルに描いている感がありました。

主人公が戦場から帰還すると、家族(母と兄)は出征以前の工場での仕事に戻ればいいと言うんだけど、本人は工兵隊で学んだことから建築土木の仕事について土木技術者になりたい、工場は上から言われたことをやるだけで軍隊みたいで嫌だ、という。ところが次のカットに変わると、彼は工場の事務室にいて上司らしき男からここで工場に関する事務仕事の説明を受けてる。そこに、砲声のような爆発音が聞こえてくる。ギョッとする彼に上司は、工場の製造工程で出る音だから心配ないという。
その部屋は工場を見下ろす高い階にあって壁一面がガラスで工場全体が見える。その窓から外を見る彼の怯えたような表情。

その後、結局工場は辞めると、町を出てボストンに行き職を得るも間も無く解雇されまた別の街に行くというのを繰り返すうちに金も底をつき身なりも悪くなっていく。
ベトナムやイラン戦争の帰還兵について語られたような、復員後の兵士が安定した職に就けずホームレス化するというような話が、1932年公開の第一次大戦の帰還兵の話として語られていることに驚いてしまう。
そして絶望的なラストシーン、というか主人公の絶望をあんな風に視覚化してみせるのかというところに戦慄する。

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