狙われた公爵子息 

アルウェスの手元に残ったのは溶けない雪の結晶だけだった。

何よりも怖い魔法は代償を恐れない魔法だった。
命やあらゆるものを犠牲にしてただ一つ自分の立場を脅かす存在がその男にはいた。
男は宮廷魔術師長であり騎士団隊長であり、現第三王子の護衛であり公爵家の次男である男が立てる手柄に脅かされていた。ましてや稼業の不正まで暴かれて今後のお先は真っ暗だ。
許せなかった。
禁忌と言われた代々家に伝わった禁術の書を紐解き、その存在を抹消してしまう恐ろしい魔法を使うことにした。
代償は命。それも血縁者全ての。
その代償の甲斐あって、魔法は発動した。

アルウェスの最近の楽しみは恋人になった愛しい受付嬢をさまざまな理由をつけてデートに誘うことだった。行きたいところややりたいことはたくさんある。
恋人も最近は少しずつ慣れてきたところで、アルウェスは次は何しようかと考えることが楽しくて仕方がなかった。
今日もそんな彼女を連れて薬草園に行き本屋へ寄って、夕方から公爵家の晩餐会に招待していた。
地面に広がった見慣れない魔法陣に咄嗟に防御魔法と解析、妨害を行ったが反応はなく、ほぼ同時に杖を出した彼女の真剣な表情を見たのを最後に、傾く体に伸ばした腕は宙を切った。
発動する魔法陣の外にいる自分。
中には彼女がいた。

フォロー

狙われた公爵子息 

再び伸ばした手は何も掴まなかった。
最後に見た彼女はホッとした表情を浮かべていた。自分のことなど鑑みずに、魔法陣の外にいる僕に安堵したのだ。
「ヘルッ!」

消えた魔法陣。彼女はいなかった。
さっきまであった気配も魔力の残渣も感じられなかった。
解析した魔法陣は古代魔法の一つで、閉じ込めた者の存在を消すものだった。
それが本当なら文字通り、彼女は消えたのだ。

ふわりと目の前に一つの雪の結晶。
それは手で触れても溶けない不思議なものだった。
そして、その時には僕は誰が消えたのかも覚えてはいなかった。
しかし、その不思議な雪の結晶だけは何よりも大切なのだとただ本能が告げるように懐にしまうのだった。

ログインして会話に参加
Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。