狙われた公爵子息
再び伸ばした手は何も掴まなかった。
最後に見た彼女はホッとした表情を浮かべていた。自分のことなど鑑みずに、魔法陣の外にいる僕に安堵したのだ。
「ヘルッ!」
消えた魔法陣。彼女はいなかった。
さっきまであった気配も魔力の残渣も感じられなかった。
解析した魔法陣は古代魔法の一つで、閉じ込めた者の存在を消すものだった。
それが本当なら文字通り、彼女は消えたのだ。
ふわりと目の前に一つの雪の結晶。
それは手で触れても溶けない不思議なものだった。
そして、その時には僕は誰が消えたのかも覚えてはいなかった。
しかし、その不思議な雪の結晶だけは何よりも大切なのだとただ本能が告げるように懐にしまうのだった。