アクキーはだいたい、小型のUVプリンタで印刷しています。使われているのはだいたいミマキ、ローランドDG、武藤あたりかな。

みんなには知名度ないかもしれないけど、産業用インクジェットプリンタメーカーの大手です。

基本は家庭用のプリンタと同じなんですが、

紫外線(UV光)で固まるインクを使って液体のインクを吐出し、その液体がメディアに乗った直後に紫外線を追いかけて照射して瞬時に固めることで、滲んだり流れ出したりする前に像を固定することができるので、いろんなモノに直接印刷できるという仕組みです。

ネイルに使うUVと基本は同じです。

アクリルにはインクが染みこまない(弾く)ので、インクは表面で固まっています。剥がれないような強度で密着させるのは難しいのですが、インクの改良によってかなり改善しています。

密着しやすくするための下処理を行ったり、表面を触ったり傷つくことから守るオーバーコート処理を行ったり、いっそ付加価値をつけちゃおうということでレジンを盛ったり(ポッティング)、絵を見る側の裏側から印刷(裏刷り)して問題を軽減したりしています。白ベタを刷るのは発色の問題もありますが、コートとしての働きもあります。

これをレーザー加工機でカットしたものが商品になります。

ここまで前提ね。

どのインクもそうなんですが、微細なインクジェットノズルから吐出するのに最適なさらさらの液体の状態から、乾燥して固着するまでの間にインクは変化します。

水性のインクなら水分が蒸発して固着します。水性染料なら色が染みこみます。

水性顔料の場合は少し染み込みますが基本的に表面に残ります。

溶剤・エコソルベント系では、塩ビなどの素材に溶け込んで顔料もある程度内部まで染み込み、溶剤分が揮発して乾燥します。このとき、熱をかけてメディアを温め、素早く揮発させることで、より綺麗に強固にすることができるので、だいたいヒーターで熱をかけます。

プリンターでは使われないと思いますが、溶剤には二つの液体を混ぜ合わせて反応させて固める2液型のものもあります。

ラテックス系も素材の表面で乾燥して固まりますが、これは熱をかけて固めます。

武藤のMPインクもラテックス同様です(説明手抜き)。

UVは、紫外線に反応してエネルギーを生じる光重合開始剤を起点にUV反応が始まり、顔料や樹脂分を抱き込んで、成分のほとんどがそのまま固まります。

UV光が当たらないと反応しないので、メディアに染みこんでしまうと具合が悪いです。また、盛りまくって濃色を一度に固めようと思ってもUV光が届かないこともあります。

UVプリントの不良の原因としては、素材、インク、UV光、温度・湿度などの環境要因、機械への設定ミスなどがあります。

素材の表面状態に対しては、UVはシビアです。

アクリル表面に貼ってある保護シートを剥がして印刷するのですが、その際、保護シートの糊がわずかに残って不良になったり、剥がす際の静電気がムラのある状態で残っただけで画質不良になったりします。手袋をして作業しますが、触った部分が不良になることもあります。

素材は、UVインクとのマッチングもあって、特定樹脂メーカーのこの製品、という組みあわせが問われる場合があります。

たとえばアクリルはアウトガス(製造後にアクリルから揮発するガス)も発生するので、作りたてのものより、ある程度の期間倉庫で寝かせておいたものの方が良いです。つまりコンディションも実はあります。

また、UVとの密着を改善するためにポリスチレンを混ぜたり、表面に密着の良い層を設けた、UVプリント向けの製品もあり、印刷を請け負っている業者がどのアクリルメディアを選んでいるか、という差もあるかと思います。(まあわかるわけないですけども)

……詳しく書きすぎてますね?

ま、この際、ちゃんと書いちゃいましょう。

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加工と絡みますが、レーザーカットや熱バフ加工など、熱で溶かして加工する処理により材料内部に残留応力といって変形しようとする力が残ったまま固まっていることがあります。

UVインクが固まる前の状態でこの材料に触れると、その残留応力が解放されて、一気にひび割れが起きることがあります。前加工には要注意です。

密着の改善には、コロナ処理やフレイム処理、イトロ処理など、前処理として表面改質を行う場合があります。手間が掛かるので避けられるならやらないで済ませますが、これをやっている場合はその処理が不十分で密着が得られていない場合があります。

表面になにか塗布する下処理の不良も考えられます。

インクは性能劣化していることがあります。この場合、同じインクを使っていた製造ロットは全部ダメということになります。

UV光はUVランプによって照射しますが、このランプの出力が弱まっている(あるいは強すぎる)ことによる不良も考えられます。また、UVランプと素材の間にあるガラス部品の汚れなどで、光量が確保できていなかったりムラが発生していることがあります。

要は機械のメンテ不足ですが、普段からコンディションをよく見ておく必要があるのと、過酷な使い方をしている環境ではマメに清掃して綺麗に保つ必要があります。

UVランプは以前はメタルハライドがよく使われていて、密着性や硬化能力においては優れているのですが、劣化が早く、熱の発生量が多く、電気代もかかるので、現在はLEDのランプが主流です。

UV光は、弱いと反応が不十分で密着が悪くなったり、臭気がしたり、水やアルコールへの耐性が悪くなったりします。

他方、強すぎるのもダメで(オーバーキュアといいます)、硬くなりすぎて割れやすくなったり、インクジェットはインクを重ね打ちしていくワケですが、その重ねる過程でお互いに弾き合って強度が弱まります。

また、いわゆる紫外線劣化はどんなものでも起きるのですが、それが加速してしまいます。有り体に言うと日に焼けてしまうわけです。

温度・湿度ですが、一般に素材側の温度が低すぎると密着が悪くなったり、インクの最適温度になっていないとインクの粘度が適切でなくなって詰まりやすくなったり反応が悪くなったりします。製造した場所がやたら寒かったりすると厳しいってやつです。

設定ミスですが、パス数やUV照射量の設定などを間違えると、画質が劣化したり密着が悪くなります。

印刷開始したらほぼ全自動の機械なのですが、誰でも同じ結果が得られるようで、しっかりしたオペレーターが作業しないと意外と差がでます。

さて、ひび割れですが、ざっくりいうと表面の密着不良と白インクの収縮による剥離だと思います。ランプかインクかな……。

保存環境はたぶん関係ないです。

アクリルに密着が悪いのは主に、UVインクの成分が固体に変化する際に起きる体積の変化・減少による縮む力がかかることによるもので、密着の改善のために、硬化収縮の少ないインクを使ったり、ガチガチに固まらず幾分か柔軟性のあるインクを使って力が一箇所に強くかからないようにしています。

インクを沢山盛ってしまうとそれだけ強い収縮がかかるので、白を濃く刷るのはリスクがあります。

素材と接する面の密着が良ければ耐えられるのですが、ここが少し弱い状態だったり、白を刷る際に濃度が濃すぎたり、ランプが当たるタイミングや強さが適切ではないことにより、ひび割れて剥がれるという結果になることがままあります。

恐らく、その時期に製造したアクキーはすべて同様の現象が発生するのではないかと思います。

あれこれお話できるのはたくさん経験を積んできたからで、私もたくさん失敗を重ねてきました。

今回の件、首は突っ込みませんが、当事者の方に適切な対応が行われるといいですね。

業者の方は、良品の作り直しか返金対応が適切と思いますが、それはそれとして現場を見直した方がいいかと思います。

ちなみに、だいたいUVインクジェットはアルコールやシンナー等の溶剤には弱いです。

硬く固まる硬質インクは溶剤などにも強い耐性があるのですが、硬化収縮により密着が悪かったり、硬すぎて割れやすかったりするので、今の主流は柔軟インクです。

柔軟インクは分子同士の結合が弱く、溶けてしまったり、溶剤が浸透して密着面に入り込んで剥離してしまったりします。

あと、温水が意外とダメです。

保存環境は、熱がかかったり冷めたりすることで熱収縮率の違いによる剥離を促進したり、光が当たり続けて紫外線硬化や劣化が進んだり、こすれで物理的に壊れたりしますが、今回のようなケースではあまり関係ないと思います。

今回のようなケースの再発防止ですが、サンプルを手元(業者側)に残し、不良の報告があった際に保管環境によるものか製造不良によるものか判断できるようにすると良いです。

業者側が初動で突っぱねがちですが、ひとまず責任の是非は保留し、不良の現物を送ってもらって、十分に聞き取りを行い、検証する。返金するだのなんだのはその後です。

正直、こういう不良はレアケースじゃないと思います。

ダジャレを検出しました(検出ワード: ドウシ)

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