映画『ラストマイル』のアナキズム要素について
ラストマイル、改めて筧まりかに心を寄せてしまうな……。非暴力では何も変わらなかった大企業を、暴力に抵抗するための暴力で、ようやく少しだけ、そして意図とはすこし異なる形で動かした。無論、市民を無差別に狙ったことについては明確に良くない。だけど、わたしたちの本来多様な欲望が大企業や資本主義によって、ひとつのモノへ向けられるように仕向けられた社会に対して疑問を抱かず、モノを手に入れることで欲望を満たそうとするその態度は、結局体制に飼い慣らされていることに他ならない。筧まりかがそのことに思い至った末に実行したのだとすれば、わたしたちは果たして無辜の市民でいられるだろうか、と思ってしまう。
筧まりかが見落としていたのは、大企業と顧客の間に、それを運ぶ労働者がいるということ。エレナはこの労働者の目線の方を掬い上げたからああいう結末になった。筧まりかには、それを目の当たりにしてほしかったと思う。
エレナはむしろ山﨑佑の側でもあるので、もっと筧まりかに心を寄せてもよかったのでは、と個人的には思うけれど、欲しいものを「全部」と言って憚らないエレナは優良な顧客そのものなので、落としどころはそこかもね、と思う気持ちもある。