『外地の三人姉妹』
めちゃくちゃ良かった。初演の評判を聞いていたし『かもめ/カルメギ』もとても面白かったから期待していたけど余裕でそれを上回るクオリティで。
日韓関係の政治的なテーマの描き方の素晴らしさはもちろん、チェーホフの原作の理解がめちゃくちゃクリアになるのが翻案として傑作だなと思う。
私、チェーホフ作品でしっくりこないことがたまにあって、その理由の一つは舞台設定が遠く感じてしまうことなんですよね。三人姉妹も、モスクワへの憧憬とか軍人の登場人物の多さとかが、自分の理解の範疇に上手く降りてこない感じがあるんですね。それが、翻案による設定変更によって見事に筋が通ると言うか、こう読めばよかったのか!って発見があった。
中でも三幕の火事の場面ってずっとよくわかんなかったんです。ただの事故以上に意味が取れなくて、というかもしかすると原作でもただの事故としてしか描いてないのかもしれないけど。でも、今回は火事自体は物語上は事故だとしても、それによって朝鮮人への差別が浮かび上がったり、軍人たちの精神的な圧迫感や戦況の悪化を匂わすドラマツルギー上のとても良い仕掛けになっている。ここは原作よりも良いなと思ってしまった笑。
チェーホフの四大戯曲を全部翻案してくれるのかしらとほのかに期待を抱きつつ。
ソン・ギウン&多田淳之介の翻案で気づかされるのは、チェーホフの作品ってどれも田舎の(しかしながら一部の人々には魅力を感じさせる)土地に行かざるを得なかった人の話なんですね。当時のモスクワと地方との関係もそういうものだったのかな、と翻案からさかのぼって想像できる。