『アルマゲドン・タイム』観た

大好きな祖父から受けた薫陶と、浅はかで苦い経験とを、おそらく一生胸に抱え社会を生きていこうとした、少年だったあの時間。ジェームズ・グレイ監督の自伝的作品ですけど、ノスタルジーではなく、子供の愚かさと大人の正しさと弱さを見つめるような苦みある作品で良かった。

学校になじめないとはいえかなりの悪ガキ(勝手に中華の注文をしたのだけは本気でイライラした)なユダヤ系のポールが、黒人のジョニーとだけは心を打ち解けられた。その過程は悪ガキ達ながら心地良いものだったけれど、さりげなく社会の差別意識が浮き彫りになり、遂に運命を分ける些細な悪事へ。子供の浅はかさが非常に哀しい。自分が不公平や差別を理解したのはいつだったかと思いをめぐらした。

大人達も、彼らなりに愛と正しさと弱さがあるのを真摯に見つめる視点でとても良かった。愛情あるユダヤ系白人の中流家庭から、迫害と移民、格差と教育とエリート主義、差別などのテーマがさらりと語られ面白かった。父親の心情が吐露されるのには泣いた。現実を高潔に生きる難しさよ。

理解ある祖父、アンソニー・ホプキンスの存在感!高く飛ぶロケットと孫を眺める姿と、語りかけが素晴らしかった。いや、本当に良かった。

じいちゃんは本当に立派な人だっったのだなと、孫への触れあい方と父の語りから、時差でわかるのが良い。この後半の父親、苦しい立場で、じわりと弱さが出てきてしまう具合がいいんだよね…。高潔に生きるは難しい、でもだからこそ心がけなければならないんだよね。監督の心にも刻まれているのだろうな。

アンソニー・ホプキンスの、元気で愛嬌のある時と元気がない時の演技の差もすごかった。生々しさ。

ユダヤ系差別と黒人差別が重層的に語られているのが興味深かった。経済的格差も。私には知れない当事者の状況と感覚が垣間見える。黒人ジョニーの先の暗さ、耐えて浮かび上がって欲しいと願ってしまう。
エリート主義に向かう一因もあるのだろうと推測できる。トランプ姉(チャス姉!)のスピーチ「全て努力で掴んできた」も、客観的には妥当でないという監督の認識も見られる。

全体としては、少年なりの進もうとするけれど、しかし圧倒的に力も分別もなくてどうしようもなく社会の中にいる感じ、社会の中に組み込まれていく感じ、その苦い哀しさが撮り方などにも表れていると感じられて、いい作品だった。

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個人的にジェームズ・グレイ監督の作品って、父親と子、父親と家族をみつめる印象だけど、この作品も祖父と孫…と見えつつ、やはりかなり父親の映画でもあるよなぁと思った。子供として、祖父と父親を見てきて今思うこと、みたいな。素直な肯定ではなく、でもまぎれもなく愛がある的な感覚がいいよね。
ロストシティZの次に好きだな。

監督らしい演出みたいなのは数あるのだと思うけど、詳しく覚えてない中で印象にあるのが鏡使いで、この作品でも鏡の演出があって、あーこれこれーとなれて少し嬉しかった。知ってるものがあると喜んでしまう。

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