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「上海帰りのリル」の作詞は東条寿三郎、作曲は渡久地政信。

東条は詞のリズムが歌謡曲としては型破りなので、曲がつかないのではないかと思った。
渡久地の曲作りも難渋した。歌詞を受け取って20日ほどして、井の頭線のホームでようやくメロディが浮かび、
  船を見つめて いた
  ハマのキャバレに いた
  風の噂は リル
  上海帰りの リル リル
その日の夜中、「リル リル」の箇所までたどりつくと、あとはスムーズに運んだ。 「リル リル」に付けた「ファミーファミー」のメロディは琉球の五音音階にあるものという。渡久地は6歳まで沖縄で育った。

曲ができ、渡久地がピアノを弾きながら歌うのを聞いても、東条は感心しなかった。やはり歌謡曲には向かない歌詞だと思いながら帰った。

以上、飯島哲夫『上海帰りのリル ビロードの歌声 津村謙伝』による。

「上海帰りのリル」の発売は1951年(昭和26年)7月。
レコーディングは5月。その前日のレッスン室でのこと、津村謙の歌が「リル リル」のフレーズにさしかかったところで不意に途切れ、あとが続かない。作曲の渡久地政信が見ると、津村は譜面に顔を隠して泣いている。「ちょっと休もうか」と言ったディレクターの目元も赤くにじんでいた。
これも飯島哲夫の『津村謙伝』によった。

作詞家が危惧した歌詞を、作曲家と歌手がヒット曲に仕上げた。
もとはと言えば、詞のアクチュアリティ。

上海帰りのリル - YouTube
youtube.com/watch?v=19n7uyalzm

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