《ベルリン時間でいまは夜明けよ。ご存知? あそこではブロンドの少年たちが揃って臍から下を剥き出しにして朝の食卓に向かうのです。短い感謝のお祈りの間、少年たちの薄い陰毛は、金いろの朝日の祝福を受けて風にそよぎます。》

『キネマと怪人』の登場人物・浪子の台詞。
「臍から下を剥き出しに」とあることで、この浪子が、徳冨蘆花の『不如帰(ホトトギス)』から、のぞきカラクリの『不如帰』(下記歌詞)を経由してフィーチャーされてきたものとわかる。

タケオがボートに移るとき ナミさん赤い腰巻を
おへその上まで捲(まく)り上げ これに未練はないかいな
ナミコがボートに移るとき タケオは紺のズボンをば
膝の下まで摺(ず)り下ろし ……
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引き続き『キネマと怪人』を拾い読み。
ホテル「ひばりケ丘」のボーイ竜が、別のナミコ=波子に向かっていう台詞。

《大陸の某王家の令嬢、謎の美人女優、あなた様をお迎えする長春の町は、一ヶ月も前からもう噂でもちきりでございました。待ちに待ったその当日、特急「あじあ号」の一等車のタラップから降りられて、駅前の広場を埋めた歓迎の大群衆ににっこりと手をお振りになったあなた、凛々しい乗馬服姿のあなたは……》

波子はこのドラマの主役らしい。登場人物のトップに彼女の名がある。
「某王家の令嬢」とあり、清朝の皇族の家に生まれた川島芳子を思わせるが、「美人女優」という表現は芳子にあてはまるのか。あるいは波子は、川島芳子と山口淑子(李香蘭)を合成したような人物か。

川島芳子 - Wikipedia
ja.wikipedia.org/wiki/川島芳子

山口淑子 - Wikipedia
ja.wikipedia.org/wiki/山口淑子

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『キネマと怪人』を拾い読んで、『キネマと怪人』の全体に迫る。――そんな読み方は、拾い読みの精神に反する。
拾い読みとは、仮の行為、その場の間に合わせ。その積み重ねが、いつか何かの全体像を浮かび上がらせることになるとしても、それは成り行き。はじめからゴールを設定しての拾い読みは、物欲しげではないか。

というわけで、方針を変更。戯曲『キネマと怪人』を頭から読むことにする。
姿勢としては、批評や解釈というより、感想文。基本的には、再話。こんなことが書いてあったよ、と。

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