深みにはまらないうちに、どう寺山を切り上げるか。
少なくとも『壁抜け男――レミング』を自分なりに理解してからと思っていたが――
《ラストシーンで、すべての硝子は割れ、書店中の書物は散乱し、スピノザの世界は崩壊している。一枚の鏡の破片にうつる、顔はスピノザだが、そのうしろ姿は別人のように見える。がっしりと肩幅のひろい中年男は、もはや、スピノザではない。
群衆の中へ、逃げこんでゆく、「顔がスピノザで、体が他人」の父親を、カメラは追いかける。
スピノザは、人ごみの中に、見え、かくれ、そしてとうとういなくなる。》――寺山修司「唯一の書物」(『夜想』16)
シナリオを手がかりに読み解いた映画『レゾートル――はみだした男』の評だが、『壁抜け男――レミング』の最後を思わせるものがある。寺山版『壁抜け男』の全体は消化できなくても、その末尾から抜け出せばいいのでは。
屋体崩し、または屋台崩し。
歌舞伎用語。劇の山場で、建物を崩壊させるスペクタクル。
崩れ落ちた屋根の上に主要人物が現れ、見えを決める。
たとえば舞踊劇「将門――忍夜恋曲者」の場合、主要人物は平将門の遺児・滝夜叉姫と将門の残党狩りに都から下ってきた大宅太郎光圀。クライマックスで将門の古御所が崩壊する。
参考:
https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/modules/kabuki_dic/entry.php?entryid=1152
『忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)』で古御所の屋根に現れた滝夜叉姫はガマを従えている。ガマは火を吐く。
『天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)』の徳兵衛も崩壊した建物の屋根に現れて、こちらはガマに乗っている。ガマが火を吐くのは同じ。
https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/youkoso/youkoso_063.html
どちらの演目も屋体崩しにガマが伴う。特別なわけでもあるのか。
自来也とのかかわりは?
訂正
[誤] 原稿台本
[正] 現行台本
現在おもに利用されている台本は、「音菊天竺徳兵衛(おとにきくてんじくとくべえ)」の外題でも上演される『名作歌舞伎全集』第九巻所収版という。上の人間関係もこれに拠った。