こんな書きぶりですよ「牛二匹。腐れた藁わら屋根。レモンの丘。」「こんな長閑な住居にいる人達が、どうして私の事を、馬の骨だの牛の骨だのなんかと言うのだろうか、沈黙って砂埃のしている縁側に腰をかけていると、あの男のお母さんなのだろう、煤けて背骨のない藁人形のようなお婆さんが、鶏を追いながら裏の方から出て来た。」
「こんな煤けたレモンの山裾に、数万円の財産をお守りして、その日その日の食うものもケンヤクしている百姓生活。あんまり人情がないと思ったのか、あのひとのお父さんは、今日は祭だから、飯でも食べて行けと云った。女は年を取ると、どうして邪ケンになるものだろう。お婆さんはツンとして腰に繩帯を巻いた姿で、牛小屋にはいって行った。真黒いコンニャクの煮〆にしめと、油揚げ、里芋、雑魚の煮つけ、これだけが祭の御馳走である。」