歌が上手いのは当然として、何か一つは楽器の腕に覚えがあるリ卜の人たちとか素敵だな……と思ったんだけどテは太鼓しかできなさそう。それも本当に単調な音しか鳴らないやつ。弓の鍛錬に時間を割きたかったのでリズム感だけをどうにか身につけて修了ということにした。後に儀式的な舞踊とか、他種族との交流の役には立った。演奏よりダンスの方がまだできるテ。
 嘴があるので管楽器が使えないわけで、そうなると弦楽器と打楽器のバリエーションが豊富なんだろうな〜。
 でもハーモニカとかリコーダーみたいな楽器なら演奏できるか。くわえて吹いたら音が出るやつ。リはハーモニカみたいな小振りで色々な音が出る楽器の方が好きそう。弦楽器も似合うけど。

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酒場には歌がつきものだが、ことリトの村においてはその頻度も曲目も多い。
今夜も誰かが歌い出す。酔漢たちの声は拍を外して、しかし音だけは確かに歌を紡いでいく。ゆらゆらと揺れる拍子を支えるように、誰かの手拍子が加わった。しかし羽根に覆われて丸っこい表打ちも酔っぱらいのもので、編まれ損ねた経糸と緯糸ははらはらと解けていく。
ぅおぉい酔っぱらいどもめ!
げらげらと笑う声。どんと鈍い音。たたらを踏んで酒場のど真ん中に躍り出る白黒の男
隣の千鳥足に押された戦士だ。鍛え抜かれた体幹はよろめきこそしたものの男を転ばせるようなことはなく、五、六歩ほどの見事なあし音を酒場に響かせた
ぶ厚い床板が音を抱いて響かせる。それは木琴の一番低い音に似て、となれば歌を愛し詩を吟ずる一族にとって充分だった。
誰かが男のあし音を引き継いで翼を打ち鳴らす。誰かの蹴爪が椅子の脚に打ち付けられる
気の毒なのは即席のステージに立たされた男だ。精悍な顔に戸惑いを浮かべ白に黒混じりの翼を慌てて振ったが、とうとう始まってしまった歌に諦め、ジョッキの中を全て飲み干した
どん、と今度は意思をもって鳴る足音。伝統の謡曲の歴史は長く、百年でも千年でも変わることは無い
男たちの声はめいめいに旋律を分けて重なっていく。手拍子の音は正確に、

合わせて踊り跳びはねる男の尾羽が揺れる
大きな翼を広げてくるりと回り、きっと止まって逆回り。ぽんと跳んでは後ろへ、身を低くして背を逸らし天を仰ぐ
本来なら豊穣祭のときに奉納する踊りだが、神々の座す空は当然見えやしない。灯りの揺れる酒場の梁があるばかり
苦笑する男の視界はくるくると回り続ける。歌と、手拍子と、己の踏む拍子だけの世界
そこに、軽やかに吹き込む風琴の音(ね)。
はて誰ぞ楽器でも持ち込んでいたか、音色は故郷の食えない吟遊詩人のものに似ているが
音に任せてぐうと仰け反る。金の眼がゆるりと動き、音のでどころを横目で見た
熱をもった流し目がすうと見開かれる
小さな風琴を青い翼で覆うように持ち、嘴に押し当てて音を奏でる青年があった。伏せられていた赤い瞼がそろりと持ち上がり、上等の翡翠よりも澄んだ眼が男を捕らえる
「おぉっ、珍しいなリーバル!」
わぁっと起こる喝采の声。いっそう高く強く打ち鳴らされる拍子は速さを増したが、踊り手は過たず宙返りをしてみせた
厚みの増した合奏は止まらない。音楽も踊りも激しさを増していく。風琴の音色に乗るように男が跳ぶ、戦士の足拍子をすくうように風琴が疾る
先導しているのは見目麗しい風琴の奏者か、それとも自分なのか。男は高鳴る鼓動を抑えて長く嘆息した
長い、長い夜の宴のことだった

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