コイカラ10(あむあず)
倒れた青年の横にごろりと転がっているけれど、そんなことにかまっていられない。ボトルのあたりどころが悪かったのか、それとも倒れたときにも頭を打ったのか、どちらが原因かはわからないが、完全に意識を失っている。
荷物を取り返してくれた恩人をこの場に放置しておくわけにはいかず、でもすぐに目を覚ます気配はない。彼をどこかへ運ぶにも、男の人ひとりを運ぶだけの力は梓にはない。
途方に暮れていると、座り込んだ梓の隣に別の誰かが立つ気配がした。
「道の真ん中に座り込んで、どうかしましたか?」
頭の上から声をかけられる。
声に顔を上げると、サクラの花に影を落としたような色味の柔らかなピンク色の髪が視界に入った。
「沖矢さん」
梓に声をかけたのは、彼女が務めている喫茶ポアロのすぐ近所に店を構えている宿屋の店主。いまここに来たという好青年然としたにこやかな表情を浮かべている彼は、梓と、梓の足元で気を失っている青年の見事な一本背負いを見ておらず、ただ道の真ん中にしゃがみ込んでいる梓を見て、知り合いのよしみで声をかけた。