コイカラ05(あむあず)
その景色は狭い路地裏の奥にある喫茶ポアロにも届いていて、ドアを開けばはらはらと舞う花びらが店内に舞い込んでくる。訪れる客の頭や肩、荷物にもときおり付いていて、外を望むことができないポアロにも春の訪れを知らせてくれる。
「サンドイッチとコーヒーのセットを四人分、持ち帰りでお願いできますか?」
ランチタイムの忙しさからそろそろ開放されそうという時間に、ドアが開く。
表に出している『持ち帰りできます』の看板を見て気になったという若い女性グループの客は、陽気な気候の日が続く最近の天気を全身で表現するように華やかな服に身を包んでいる。みんな揃ってこれからお出かけなのだろう。
たまたま通りがかって店の看板に気づいたという彼女たちの話を聞くと、朝から気合を入れて看板を描いたかいがあるというもの。彼女たちが目にしたという看板をデザインしたのは梓。
「はい、かしこまりました!」
嬉しくて、ポアロの店員としてだけではない笑顔がこぼれた。
会計をしている間に持ち帰り用のサンドイッチセットの準備ができる。持ち帰り用の紙製のランチボックスはポアロのロゴがデザインされている。中には注文を受けたサンドイッチがみっちりと詰められている。