まあ、映えを気にするなら五年以上前に買った絵が剥がれかけたマグカップで出さないけれど。
湯気がたつほど熱々なホットチョコレートをヨシキはふー、ふーと息を吹きかけて冷まそうとする。ドロリとしてるから、なかなか冷めないだろう。
甘さも実は、ネットで検索したレシピよりもかなり強めに作ってあった。ベースのチョコレートはかの有名な板チョコだったが、カカオが一番少ないミルクチョコレートを選んだ。砂糖も書いてあった分量の二倍入れた。マシュマロに関しては、レシピには無かった。でもほら、ちょっと洒落た喫茶店とかで出てくるやつには、よく乗ってるから。
私は一口味見しただけでギブアップしたが、ヨシキなら飲み干してくれるだろう。
ヨシキは基本的に残さない。私が手作りしたものならなおさらだ。美味かろうが不味かろうが焦げてようが砂糖と塩間違えてようが、じゃがいもの芽取り忘れて鍋に入ってようが、綺麗に食べてくれるのだ。もちろん芽は自分で取り除いていたが。
「……愛情は、感じるんだけどなぁ」
「ん? なんか言った?」
「なんも」
小さく独りごちると、カシューナッツをボリボリ咀嚼していたヨシキが振り向いた。
私はあと三粒になった皿に、カシューナッツを追加してやる。ああ、こりゃ、ホットチョコレートの材料費よりこっちの方が高くつきそう。
熱々にしたのもゲロ甘にしたのも、私なりの理由があった。
狙い通り、ヨシキはホットチョコレートを飲み干すことに躍起になり、スマホを手放していた。
「そういえばさ、マナミが昨日幼稚園でねーー」
うん、とか、へー、とか、短い相槌ばかり返ってくるのは昔から。それでも目はきちんと私に向けられていた。
「ヤバいでしょ? 先生笑っててさーー」
無口なヨシキ、おしゃべりな私。話すテンポも実はかなり違う。私の方が倍くらい速いのだ。
「もー信じらんなくってさあーー」
九割聞き流してくれるくらいが本当はちょうどいいのかもしれないけれど、どうしても寂しく感じてしまう自分がいる。
ーー愛情は感じるのになあ。
たかが相槌の打ち方でこんな意地悪をしてしまう私は、嫉妬深い女なのだろうか。
「よし、完飲。甘すぎだけど、優しい味がしたよ」
「ん? 優しい味?」
つい噴き出してしまう。優しさとは真逆のスパイスが入ってるはずなんだけど。
「ご馳走さま」
「お粗末さま」
材料費総額四五◯円ほどで、約二◯分ヨシキの意識を独占できたのだからコスパは最強だ。