真木悠介『自我の起源』のあとがきはほんとうにいいな。これまでに誦じられそうなくらい繰り返し読んだ。なんでもかんでもすぐ忘れるから誦じられないけれど。
「この仕事の中で問おうとしたことは、とても単純なことである。ぼくたちの「自分」とは何か。人間というかたちをとって生きている年月の間、どのように生きたらほんとうに歓びに充ちた現在を生きることができるか。他者やあらゆるものたちと歓びを共振して生きることができるか。そういう単純な直接的な問いだけにこの仕事は照準している。
時代の商品としての言説の様々なる意匠の向こうに、ほんとうに切実な問いと、根柢をめざす思考と、地についた方法とだけを求める反時代の精神たちに、わたしはことばを届けたい。
虚構の経済は崩壊したといわれるけれども、虚構の言説は未だ崩壊していない。だからこの種子は逆風の中に播かれる。アクチュアルなもの、リアルなもの、実質的なものがまっすぐに語り交わされる時代を準備する世代たちの内に、青青とした思考の芽を点火することだけを願って、わたしは分類の仕様のない書物を世界のうちに放ちたい。 」
真木悠介『自我の起源』(岩波現代文庫) p.207」