若本衣織『忌狩怪談 闇路』。非常に映像的でありながら、決してカメラを置けないような位置から描写する筆致の巧みさ。出来事の強さだけでも成立してしまうジャンルで、明確に運動を書くことを志向している。「外怪談」や「あの山のコンコンさん」なんかは下手な映画よりも映画的愉悦に満ちている。
文字は映像よりも音の再生装置だから、目にも耳にもリズミカルな配置も重要で、これもまたおそろしいほど洗練されている。内容としても「見つけてしまう」よりも「見つかってしまう」ことのほうがずっと怖いので、すごく好み。実話怪談本をナメている人にもおすすめ。
出来事でなく運動に比重を置いた書き方であることの何がすごいって、実話怪談は基本「聞かせてもらった話を語り直す」ものなわけだけれど、この本は「自分で見たわけでもない、人から聞いた話を、体験者以上の観察眼で冷徹に解剖するようにして書く」をやっているんだよ。
https://www.amazon.co.jp/忌狩怪談-闇路-仮-竹書房怪談文庫-HO-613/dp/4801935443