伊藤友計『西洋音楽の正体 調と和声の不思議を探る』(講談社選書メチエ、2021)なんとなく読んでみたら思ったよりも面白かった。新しい発見がめちゃくちゃあるというわけではないけれども、調/調性や和声が「西洋音楽」の伝統のなかでいかに構築されていったかが史料をもとに淡々と整理されていく。文章はちょっとかたいけど難しくはない。すごいおすすめするかというと微妙だけどいい読み物だった。裏の目的として音楽と言語のアナロジーががっつり出てくるみたいなことが「はじめに」に書いてあったのでそのあたり割と気になっていたのだが、英文法における文型と和声の基本的な3つのカデンツが似てるよねという話でわざわざ言語や文法を持ち出さなくてもよくね? という感じだった。

このスケール感の入門書にちょっとワンステップ加えた(あるいはワントピックを深堀り)みたいな本っていいなーと思う。

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地味に面白かったのは「和声」の発見(単なる旋律同士の堆積ではなく、ひとつのユニットとして機能する音)がギターなどフレット楽器の奏法から生まれていったらしいという話で(pp.178-183)、つまり運指に制限のあるフレット上で和音を弾こうとすると鍵盤のようなボイシングができず、オクターヴ違いの同音を使う転回形を駆使する必要性が出てくる。こうした演奏上の慣習が、構成音さえ一致していれば同じ和音とみなす転回の感覚をつくっていって、それがラモーによる和声の理論化につながる、みたいな。わかりやすい話ではある。

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