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ハン5の1巻の特典SSを読んでヴィルフリートの内面について色々と考えていた。

彼の素直さは美点であると同時に、彼の思考の浅さや独善性の根にもなっている。この短編でそういう印象を私は抱いた。

ハン5本編では、この後ヴィルフリートはオルトヴィーンという「友人」を応援したい一心で「オルトヴィーンに全面的に協力する」と言ったがためにハンネローレに不信感を抱かせ、領地にもシャルロッテにも迷惑をかけることになる。

彼は彼なりに成長してはいるのだけれど、この素直さゆえの浅慮、あるいは浅慮ゆえの独善というのは余り直っていない。なかなか直せないものなのだろうとは直感できるのだけど、一体彼は何故そこを直せないのかについて言葉にしようとすると結構難しい。

彼の浅慮や独善性は、ローゼマイン視点だと他者への無神経さとか鈍感さとして描かれていることが多い。シャルロッテ視点だとこの「鈍感さ」が更に細かに書かれていて、ヴィルフリートが周囲の人々の動きを余りに一面的に、額面通りに捉える人間であることが描写されている。

要はヴィルフリートの持つ対人的なアンテナは感度が非常に悪い、ということなのだろう。

対人アンテナの感度の悪さは何に起因しているか。いくつかその根になりうるものはあるだろうが、シャルロッテやメルヒオールとの違いから想像するに、やはりヴェローニカに育てられたということは関係しているだろうと思う。

どう育てられたら対人アンテナの感度が悪くなるのかと考えると、幼い頃に自分が相手のために譲ったり諦めたりした経験がなかった、というようなことがあるのではないかと感じた。弟妹もいない、父母とも殆ど交流がない、という状態で、祖母や側近がわがまま放題を許していたら、他者のために諦める、我慢する、という経験はしようがない。

譲ったり諦めたりする経験が何故対人アンテナの感度に繋がるかと思ったかといえば、「こういうことを言うと相手に我慢を強いるのでは?」とか「こういうふうにすればお互いに我慢せずに済むのでは?」とかいう考えが育たないから。相手に譲らせたり、諦めさせたりするのは相手の損な訳だが、それを理解するには自分が「損をした」という経験が必要になる。自分が損をした経験がない、もしくは少ないのに、相手の損を想像できるようになれというのは無理筋だ。

フロレンツィアがヴィルフリートについて、生育歴の影響の大きさを嘆いているシーンがどこかにあったけれど、その中身を分解するとこういうことなのかな、という風に思った。

ジルヴェスターの無神経さとヴィルフリートの無神経さは似ているという描写がちらほらあるが、ジルヴェスターもまた母親に甘やかされて育った人間で、幼い頃はわがまま放題なところがあった(西の離れで育ったヴィルフリートに比べると、周囲の目があったためにそこまでではなかったようだが)。彼もまた、「相手のために自分が損を甘受する」という経験をしてこなかった人で、そのために無神経になっている側面はあるだろう。

「甘やかされたから碌でもない人間になった」という言説は今一つ論理的でないなあと感じるので、なるべく具体的に「甘やかされる」ことと「碌でもない人間」の間の隙間を埋めてみようと思ったんだけど、結果的にヴィルフリートに足りないのは経験のバリエーションなのかなという風にも感じた。「甘やかす」ことの罪は、子供から多様な経験を奪うことなのだなあ、とも。

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