出版流通のおおまかな仕組みを知ってもらえると本屋としてもありがたいので、解説しましょうのコーナーです٩( ᐛ )و 長くなるぞ〜٩( ᐛ )و
まず、このタイムラグや入荷数の差が生じる原因について至極簡潔に答えると、①書店によって使っている取次が違うから②書店ごとに取次が決めているランクが違うから③取次を通さない直取引だと最速かつ減数されることはほぼないから、というものになります。
次の投稿から詳細に入っていきますが、前提として抑えておく必要があるのは、出版流通のプレーヤーには出版社、取次、書店の3者があり、この3者間のパワーバランスに加えて、それぞれその中においても力関係や序列があるということです。
From: @nakamura_ippan
https://fedibird.com/@nakamura_ippan/111934598477240934 [参照]
出版社にも大手から零細まであるように、取次にも書店にもそのような序列やらグラデーションやらがあります。そして、出版流通は取次を中心にまわっているので、取次の仕組みを軸にして説明していくことにしましょう。
取次は基本的に
・大手=総合取次→大手出版社から零細出版社まで、ほぼすべての出版社の本を扱う(トーハン、日販など。ほぼこの2社と考えてもらってok)
・零細=専門取次→医学系の出版社だけを扱うところもあったり、数十〜数百社程度の出版社の本を扱うことが多い。大手取次に取引を断られてしまった零細出版社や零細書店はこちらと取引をすることになる(通称「神田村」と呼ばれる東京・神保町周辺にある10社ほどの取次や、子どもの文化普及協会というさらに特殊な取次などを指す)
の2つに分けられることが多いです。出版社は1つまたは複数の取次と契約をしています。
新刊書店は基本的に取次を通して本を仕入れています。出版社からの直取引もありますが、チェーン店に関してはこれは例外だと考えてもらって大丈夫です(逆に独立系書店だと直取引がメインの場合もある)。
新刊書店も出版社と同様に、大手取次と契約をするのにはそれなりのハードルがあります。とはいえ、図式を単純化するならば、ほぼすべての書店は大手取次との口座を持っています。持っていないのは、いわゆる独立系書店と呼ばれるところです(本屋lighthouseもそのひとつ)。つまり、ほぼすべての出版社とほぼすべての書店は大手取次(トーハンと日販)を媒介として、本とお金のやりとりをしている状況です。端的に言えば、皆が知ってるような出版社は大手取次と口座を開いていて、皆が知ってるようなチェーン店なら以下同文、ということです(たとえば少年ジャンプが並んでいる書店はほぼ例外なくこの大手取次から仕入れをしています)。
大手取次と零細取次の違いは、発送の頻度にもあります。前者は「ほぼ毎日」で、後者は「書店が指定した頻度」と考えてもらってOKです。この違いの理由は「雑誌の有無」が大きいです。雑誌はほぼ毎日なんらかのものが出ているので、発売日にそれを並べるためにはほぼ毎日納品をしないとならない、ということですね。逆に独立系書店に雑誌(特に週刊誌)が置いてないことが多いのは、売れないからというよりは流通の形態的に不可能だから、です。ちなみに大手取次による納品の送料は基本的に取次負担で、零細取次の場合は書店負担が多いです。
なぜ大手取次はほぼ毎日納品があるのか、ということをもう少し詳しく説明しましょう(つまり配本制度についてですね。これが諸問題の根源だったりするわけですが)。
出版流通は雑誌流通を基礎にして成立し、運用されてきました。週刊誌、月刊誌、季刊誌などなど、つまりほぼ毎日なにかしらの雑誌が刊行されるわけなので、そのためのシステムを構築するのが必然です。その仕組みに書籍=定期刊行されるわけではないものを「ついでに」載せることで、うまくいっていたわけです。が、ご存知のとおり雑誌は売れなくなってきていて、「雑誌のついでに書籍」のありかたが成立しなくなってしまったわけです。
この「売上実績」というのが肝で、内実は「レーベル単位または出版社単位での実績」であり、著者の過去作の売上ではないことがほとんどです。ゆえに、「この著者(とかテーマ)の本ならたくさん売れるし実際に売ってるのに配本0なんだが!?」ということが頻繁に起きるわけです。さらにここに「大型店/小型店」「都市部/地方」「大手チェーン/零細チェーン」などの要素も加わるので、後者の要素があればあるほど「配本に泣かされる」頻度が増えることになります。入らないから売れないし、売れないから入らない。そういう悪循環に陥るわけですね。
ではこの配本制度をなくしてしまえば、あるいは大手的なありかたの取次流通を変えてしまえばいいじゃないか、というとそうは簡単にいかないわけで。あまりにもシステムが大きなものになりすぎたので、このシステムを止めたり壊したりすると業界すべてが崩壊することになります。よく言われる喩えは「手術しないと悪化して徐々に死ぬけど、メスを入れたら破裂してすぐに出血死に至る腫瘍」です。なのでいかにソフトランディングで胴体着陸するか、みたいな状況です。
@gucchi_penguin 超わかりやすかったです……ありがとうございます………!
個人的に1番びっくりしたのが、
→この「売上実績」というのが肝で、内実は「レーベル単位または出版社単位での実績」であり、著者の過去作の売上ではないことがほとんどです
これです!正直そんな売れっ子じゃないのでここにこんな置かれるんだ…!と思ったので
@nakamura_ippan また時間あるときに追記します!ヽ(*´∀`)ノ
先に細かい話を追記しておくと、すべてが配本で決まるわけではなく書店からの指定がきくものもあります。銘柄ごとだったり、あるいはお店自体の力があるとか、書店員個々と出版社営業の繋がりがあったり...etcといった要因も重なるので、状況ごとにバラツキがあるのも確かです(出版社は東京に固まってるので、都心以外の書店はこういう「ツテ」的なもので仕入れを優位に進めることができない、とも言えますね)。
送料に関しては、確かに最初はきびちいな〜と思ったんですけど、いまはむしろ送料をちゃんと負担するほうが健全だし長続きすると感じてます。(大きな)出版流通システムが崩壊しつつあるのは、出版社と書店が流通のすべてを取次に丸投げ=コストやリスクを負わせたからだとも言えるので......。
このあたりもいずれ追記します〜ヽ(*´∀`)ノ
@gucchi_penguin なるほど…それにしても個人書店の負担がでかいのはムム…となりますね…
あと自分は自費出版(個人書店さんにたくさん置いていただいてお世話になりました)→リトルプレス→大手出版社と経験してきた身として、たしかに原稿料を毎月いただけたり発送営業やらなくて済んだり作家としてメッチャ恩恵を受けてるところはあるんですが、大手に行けば行くほど個人書店さんの負担が上がってしまうっていうジレンマみたいなのもありますね…… やっぱ自費出版の方がフェアな感じがしたり……
お忙しい中ありがとうございます!!!!!!
毎日のように何十点も刊行される雑誌をすべて把握し、入荷数を決めるなんてことはマンパワーでできることではなく、配本制度というものが必要になります。これは取次(または出版社)が書店に納品する銘柄と数を決定する仕組みで、これを使えば書店はなにもしなくても本が入ってくるので、入荷した本を並べさえすればいい、ということになります。これの功罪はさておき、そういう仕組みがなければ成り立たない商売であることは前提としてあるわけです(少なくとも総合書店的なところ=チェーン店では)。
そして、従来型の書店は雑誌と文庫とコミックが売上の柱だったので、文庫やコミックも配本制度を活用していることがほとんどです(薄利多売の極みですね)。だから文庫もコミックも出版社やレーベルごとにだいたいの発売日が決まっているわけです。たとえば少年ジャンプコミックスは毎月4日前後ですし、集英社文庫はだいたい15〜20日のどこかです。ヤングジャンプも中旬だったかな。そしてこれらの納品数=配本数は、基本的に取次/出版社が決めています。その基準は「そのお店での売上実績」のことが多いですね。