「批評家としての吉本隆明を代表する作品として、まず「マチウ書試論」を挙げることができる。そこで提起された諸問題を一つに総合し、十全な解答を与えた著作こそ『最後の親鸞』であろう。「マチウ書試論」で描き出されたイエスと、『最後の親鸞』で描き出された親鸞は互いに良く似た分身のように、あるいは互いに正反対に映る鏡像のように、存在している。イエスは、ユダヤ教的「絶対との関係」を解釈と実践の果てに解体し尽くし、「神」めぐる未曾有の思想として再構築した。親鸞は浄土教的な「絶対との関係」を解釈と実践の果てに解体し尽くし、「仏」巡る未曾有の思想として再構築した。」(安藤礼二『吉本孝明』NHK出版2019年)