【人間の脳が作り出した世界】
意外なことに人間の脳は、自分たちが暮らす自然界をしっかりと把握することができない。進化が作りだした生物の世界は、多様性に満ちている。あらゆるものが個性を持ちながら、つながりを持っている複雑な世界である。人間の脳は、この複雑さが区分できないのだ。いや、できないというよりも自然界を生き抜くためには、複雑な世界をまるごと理解するよりも、自分に必要な情報のみを切り出して、単純化する能力を発達させてきたということなのだろう。自然界には境界はない。すべてがつながっている。・・・人間の脳は、複雑にこの世の中を、ありのまま理解することはできない。そのため、区分して単純化していくのである。理解しにくいから、「できるだけ揃えたい」と脳は考える。・・・・
【「ふつう」という幻想】もともとは、生物の世界にふつうなどというものは存在しない。ふつうとふつうでないものとの区分もないのだ。もちろん、私たちは人間だから、多様なものを単純化して、平均化したり、順位をつけたりして理解するしかない。しかし、それは私たち人間の脳のために便宜的に行っているだけで、本当は、もっと多様で豊かな世界が広がっているということを忘れてはいけないだろう。(同pp.202-207)