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津村記久子 著『ウエストウイング』は、老朽化した雑居ビルを舞台にした物語。
設計事務所に勤めている事務員、絵を描くのが好きな小学生、土壌解析会社の若手社員の三名が主人公。彼らは真面目ではあるものの、ほどよくサボるところに親近感を持った。
私は特に小学生の彼がすごくいい味を出していると思う。まだ子どもだけれどどこか大人の部分があって、教えられることが多い。

けれどこういった情報から想像するような小説とは一味違っている。
なぜなら、盛り上がりそうな場面でも徹底的に平静さを失わないように書かれていて、湧き上がる興奮だとか感動で胸が熱くなるだとか、そういった感情を揺さぶるような出来事は一切起こらないから。
というとつまらなく思えてしまうかもしれないけれどそうではなくて、計算されて非常に高度なことが行われている気がするのだ。感想を書き留めていて言葉が止まらない小説はいい小説。

書かれている地味な毎日の中には、自分の地味な毎日がなんとなく重なる部分もあり、読後なんと言ったらいいか分からない気持ちになる。でも「こういう生き方もいいのかも」とぼんやり思うような、そういう話だった。生活が続くってきっとこういうことなんだと思った。

publications.asahi.com/ecs/det

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