山白朝子『エムブリヲ奇譚』読了。
旅行ガイドブックのようなものを書くことを生業にしている作家の男と、その友人で旅行の際の荷物持ちをしている男。この二人が行く先々で不思議な体験をする連作短編集。
いつの時代なのか書かれていないけれど、寺子屋が存在しているので江戸のあたりなのだろうと思う。
参詣や湯治に出かける庶民をターゲットに、どの本にも紹介されていない土地を求めて、結果的に怪しげで危険な旅を繰り返すことになるのが面白い。
作家の男の「迷い癖」が最も怪異。方向音痴どころの騒ぎではなくて、目的地になかなか辿り着けない上に、通常では踏み入れない狭間のようなところにだって迷い込んでしまう特殊な体質。それでいて、のほほんと泰然とした愛すべき人物。読み終わる頃には大好きになってしまっている!
旅先で出会う人々とのやり取りのなかで人間の色んな面が見られる。
愛情や優しさ、切なさもあれば憎しみもあり、生理的に嫌悪を感じたり、ほんのり怪談も混じるけれど最後は「いい本だったなぁ」としみじみ。
理由のあることが世の中の全てではないから、特に怪異なんてそういうものだと思うから、オチのない話も含まれていることが私としてはとても良かった。