浅田次郎『姫椿』読了。
短編集って一つ一つの設定を覚えるのに疲れてくることが多いけれど、本書はそういう煩わしさがまったくなかった。
どの話も数行の説明だけですんなり物語に入っていける。主人公がどんな人物であるか、これがどういった場面なのか、すぐ把握できるようになっていてストレスがない。
設定もさまざまなのに分かりやすく、構えずに読んでいける短編集だった。
登場するのは、共に暮らしてきた猫を亡くしたOL、負債がたまって後に引けなくなった経営者、不可解で恐ろしい真実を話す旧友、謎を残して突然死してしまったマダム、会社でも家庭でもお荷物になっている男、舞台人である元恋人を忘れられない社長、酔っ払いの女を拾った文芸編集者。
感動作からホラーまで色んな人生があると思わされたけれど、短編なので気楽に楽しめる点が良かった。
個人的に特に良かったのはラストの『永遠の緑』という話。
主人公は競馬が趣味の大学助教授。元教え子だった妻に病で先立たれ、娘と二人暮らしをしている。
妻と娘への愛。娘が親を思う愛もあって、なんだか心が温かくなる。こんな愛は素敵だなぁと素直に思った。二人の未来を思うと私まで朗らかな気持ちになった作品だった。