東山彰良『流』読了。
第153回直木賞受賞作。
終盤は涙を堪えながら読み、読後はいろんな思いで胸がいっぱいになった。
登場人物の名前を覚えるのに苦労したけれど、ストーリーにグッと集中させてくれる読みやすさがあった。
1975年の台湾を舞台にしていて、青春でありミステリーであり戦争と家族の物語でもある本書。
堅気ではない人々や暴力行為もあり、17歳の主人公もケンカが絶えず、基本的に物騒ではあるものの、街の喧騒や夜市の描写に熱気を感じた。
どこもかしこも人々のエネルギーに溢れている。
祖父の死で幸せな時代が崩れ去った主人公が、一族のルーツを辿っていくというのがメインのテーマだった。
戦争経験者の話はやはりつらくて悲しい。人がつけた因縁は、また人の力で断ち切らなければ、それこそ根絶やしになるまで復讐はいつまでも終わらない。
全編主人公の回想として語られるため、過去と現在と未来が行き交い、人の歴史が繋がっていく感動があった。
過去に何があり現在がどういう状況で未来に何があろうとも、幸せな瞬間は幸せなまま記憶に残るのだと思うと泣きたくなった。
その一瞬があるから生きていられるのかもしれない。人の営みは愛おしくて切ない。
印象的だった箇所抜粋。
"道の先に圓山大飯店が立ち上がり、わたしは高速道路を降りる。雨のせいで、道路だけでなく、どこもかしこも薄汚れて見えた。張り出し屋根の下は不法駐車のオートバイが占拠しているので、人々は不便を強いられていた。
建物にこびりついたスモッグが雨に溶けて流れ出し、壁に黒い筋をつけている。雨水に流されたゴミが側溝の格子蓋に山と溜まり、そのそばでは少女が傘もささずにバスを待っていた。神様はきれい好きにちがいないけれど、汚れた街を水拭きした雑巾を、わたしたちの頭の上で絞っているのだった。"