緊迫感でグッと集中した箇所抜粋。
二人は母屋の中を全力で駆け抜け玄関を出て階段を降りた。車道を半分くだったところで少年を野原へ引っぱり出す。うしろを振り返った。イボタノキの垣根の残骸が部分的な目隠しになっているが猶予時間はせいぜい数分いや一分ないかもしれない。斜面の下で死んだ笹の繁みを突き破り道路に出るとそれを横切り反対側の森へ駆けこんだ。彼は少年の手首を握る力を倍にした。走るんだ、とささやいた。逃げなくちゃいけない。家のほうを振り返ったがなにも見えなかった。あの連中が車道を降りてきたら森の中を走っているこちらの姿を眼にとめるだろう。今が正念場だ。正念場だ。彼は地面に身体を落としながら少年も引きおろした。しーっ、といった。しーっ。
ぼくたち殺されるの? パパ?
しーっ。