西村賢太『一私小説書きの日乗』読了。
2011年3月〜2012年5月までの日々の記録がまとめられた一冊。
読んでいて飽きないどころか、日記文学の面白さに気づかせられた。どんな人も生活を繰り返しているというただそれだけのことが面白い。

書いてあることといえば、主に一日の行動について。何時に起床、入浴し、一日こういう仕事を行い、食べた物の記録をし、明け方に酒を呑み一日を終える。時々、尊敬する人物への思いが綴ってあり、編集者との喧嘩や愚痴もしつこく書いてある。

でも日記として気楽に楽しめる範囲の事しか書かれていない。
何を書いて何を書かないかというのが徹底されているように感じた。この日記を読んでいて不思議と安らぎをおぼえるのは、その取捨選択が絶妙だからなのかもしれない。

私はまだ『苦役列車』しか読んだことがないが、その時に感じた面白みを本書でも得られたのが良かった。
言いたい放題なところも好意的に見てしまう憎めなさがある。でもこれはおそらく好みが分かれるのだろうとは思う。

『小銭をかぞえる』は、不快な男が出てくる小説だと女性読者から猛抗議がきたとか。どのくらい酷い男なのか、早く読んで震え上がりたい!(買ってある)

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ある日の日記、抜粋。読んでいてリズムがいいなと思う。 

" 十一月二十三日(水)
午後二時起床。入浴。
「青痣」、通しで読み返しつつ訂正を入れる。
短篇の推敲は刈り込むのが理想なのかもしれぬが、自分の場合は、逆に滅法加筆が多い。
だが、無駄のないシャープな文体よりかは、くどくどとねちっこくてアクの強いそれの方が、自分の良しとするスタイルなので、これはもう致し方がない。
矢鱈に消して、その数倍を書き込み、最早"清書"の態をなさぬ汚ない原稿を、夜八時過ぎになってようやく『新潮』に送る。着払いのバイク便使用。
程なくして、同誌の田畑氏より、携帯メールに採用の連絡がくる。とあれ一安心。
缶ビール一本、宝一本。宅配寿司三人前。"

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