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湯本香樹実 著『岸辺の旅』読了。
三年前に失踪した夫が帰ってきた。死者として——
時間を遡るようにして夫の帰ってきた足跡を二人で辿る……こんな切ない旅があるだろうか。
夫が今にも消えてしまうのではないか、現世に引き留めておけないのかと気を揉む妻の切実さがよく伝わってきた。

旅の始まりから、もう終わりが見えているのは明らかで、そこに向かってどう気持ちの折り合いをつけていくのかという話になってくる。だから終始寂しくて胸が引き裂かれそうだった。
なんでもない日常が実は最も心を潤すものだなんて、本当は気づきたくない。もう主人公にはそんなささやかな願いさえ許されない現実が苦しい。

旅を通して過去に触れて、二人の安らぎを共有して慰められる。
ふわふわと現実感のなさが美しくて、澄んだ空気に包まれているような二人が、いつまでも一緒にいられたらいいのにと願わずにはいられなかった。

映画化されているみたいなのだけど、文章だけで充分に光景が目に浮かぶ。キラキラした眩い光や底のない闇の明暗まで感じられて、世界がとても尊いものに見える。
特にラストの数ページがとてつもなく好きだった。この物語はこのまま心に仕舞っておきたいなぁ。
著者の本は他に『西日の町』を読んだことがある。これも亡き人を思う物語だった。

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