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川上弘美 著『どこから行っても遠い町』読了。
これはタイトルが猛烈に好きで中身も知らずに買った本。東京のどこかの町の、商店街を中心とした11の連作短編集だった。読む前から絶対に好きだと確信していたので、いつのタイミングで読むか吟味していたくらいだ。最後まで読んでみてやはり大好きだった。
傍から見れば平穏に続いていく日常と、積み重なっていく過去が描かれている。この町で働く人、買い物に訪れる人、住居としている人。主人公が代わっていっても一様に温度の低さが心地よく、誰も無理をしていないように見える。
この町の人々は、自分の心と孤独に向き合い、隣人に心をさらけ出したり隠してみたり、付かず離れず生きている。どこにでもいそうだけれどここにしかない、はかない繋がりがあってそれがどうしようもなく心を惹きつける。
共感できることはほとんど無いのに、この本に出てくる人たちのことを誰一人嫌いになれなかった。かといって好きと言えるわけでもない。どれもこれも、分かりそうで分からない。この近くて遠い、遠いようで近い距離感が絶妙だった。人間の魅力ってそこにあるのかもしれないと思えてくる。
なんだか切なくて愛おしくて胸がいっぱいになる本だった。

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