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小林多喜二 著『蟹工船』読了。
オホーツク海の海上で、荒れた大きな波に煽られて約三千トンの船が上下する様子。船の軋む音や振動、着物の上から刺しこむ雨や吹雪。思い浮かべるだけで手足がかじかんでその場にいるような気分になってくる。
想像を絶する労働環境・生活環境。航海法や工場法をすり抜けて人間を使い捨てにするやり方は到底許されるものではなく、人間扱いされないまま命を落としてしまった漁夫の描写は悲惨だった。
名前も書かれていないような労働者たち、大勢の目線が力を帯び始め、連帯が生まれていくところが良かった。1人の先導者がいるのではなく自発的に、日々の仲間との交流の中から徐々に意識が形成されていく。屈従しか知らなかった労働者たちにそれ以外の選択肢が見えてくるあたりで、心が浮き立つ感覚がした。
弱い立場の労働者に権利を勝ち取る意識を芽生えさせる、これを何としてでも世に出し資本側と戦う、という相当な覚悟を感じた。重苦しい内容なのに読後感はしつこくなく、希望だけが残る。

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