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マリアーナ・エンリケス著 宮崎真紀訳『寝煙草の危険』(国書刊行会)、すごくよかった。『兎の島』に続くスパニッシュ・ホラー文芸第二弾で、今回も川名潤さんの装丁が素晴らしい。言葉がすっと裡に入ってきたと思うと蠢きだすような読み味で、短い話も多く次々と貪ってしまう。恐ろしさのなかにおかしみもあり、女性の主体的な性、アルゼンチンの過去や社会状況の超自然的な反映、顔を背けたくなるにおい、などが印象的な一冊でした。

腐った赤ん坊につきまとわれたり、ひどい扱いを受けたホームレスの呪いで街中に災禍が起きたり、街のあちこちにいる死んだ子どもたちを見てみぬ振りをして暮らしたり、カリスマ的ロックスターの死骸をファンが掘り返して貪ったり――
中でも凄まじかったのが、「どこにあるの、心臓」。異常のある心臓の音に取り憑かれた女性が、知り合った心臓病男性の鼓動を薬や酒でさらに異常にして心音を聴き続けるという…。「戻ってくる子供たち」は、失踪した子供たちが一斉に戻ってくるが…という街で起きる「ソラリス」でよかったです(作中〝日本人は、死んだあとに魂が行く場所はスペースが限られていると信じている。いよいよ限界が来てそれ以上入りきれなくなると、魂はこの世に戻ってき始める。〟という会話が出てくるんですが――それは日本人というか、黒沢清の『回路』なんでは……! とちょっと笑った)。

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