すごい現代文学短編集を読んだ。ディーマ・アルザヤット著 小竹由美子訳『マナートの娘たち』(東京創元社 海外文学セレクション)、弟の遺体を浄めながら過去を思い出す「浄め(グスル)」 からいきなり素晴らしく、様々な境界の縁に立つ人の視点から描かる多声的な作品の数々に圧倒される。
アラブ系移民2世とその伯母の波乱の人生と窓から落下する女の話が交錯する表題作、障碍を持つ弟が消えて探し回る語り手の複雑な心境を描く「失踪」、ワインシュタイン事件を彷彿とさせる「懸命に努力するものだけが成功する」、そして短編集の三分の一を占める「アリゲーター」は、実際にあった移民夫婦のリンチ事件に基づいて、新聞からメールからSNSから台本から、様々な虚実をコラージュして人間社会を俯瞰的に描き異質なものを排除する暴力性を炙り出す野心作。「サメの夏」では、衛星放送チャンネルの販売員たちが仕事をしていたら、テレビのニュースでビルに飛行機が突っ込んでいく映像が映り、移民のいるその場の空気が変わるようすがリアルに描かれる。

著者はシリアのダマスカス生まれで、7歳でアメリカに移住。これがデビュー作だそうです。

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