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野村剛史2011『話し言葉の日本史』吉川弘文館、読了。現代文法の専門家が、ひょんなことから文法史、音韻史へと興味を広げ、とうとう口語史を書き上げてしまった。伝統的な日本語史の概説のありかたは、口語史を過去から現在へと書き綴るので、その意味ではかなり日本語史ど真ん中の語り方だと感じた。

音韻史の部分は、私だったらこう論じるかなと思いながら読んだが、中世の文法史の部分はさすが著者のご専門ということもあって、言葉の歴史に対するパースペクティブのようなものが面白かった。ガ格が作る連体句と係り結びの関係や、片仮名申状における漢語の広がりなど、もう一度読み直したいエピソードもある。

で、そうかなあどうだろうと思うのは、「江戸の言葉+山の手に集まった地方人の言葉がコイネー化して標準語になった」という比較的広く受け入れられている説に対して、「江戸期にすでに上方由来の共通語のようなものが存在していて、それを継承したのが山の手言葉、標準語はその意味で上方語の系譜」という説。面白い、とは思う。江戸弁に一部の語彙や文法に関西の影響が見られるとは従来から言うけれど、借用とか言語接触の枠組みで語られてきたのであって、直接的な系譜と言われるとどうかなーと思う。

比較言語学的な方法論によったものでもなし、ちょっと受け入れがたい。

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