山口県岩国市にある大般若経の調査、写真撮影に同行した。大般若経は全600巻あり、院政期〜鎌倉期のものに近世のものが補完されて現代まで残っているようだった。
同行した先生によれば、大般若経は国家鎮護に関わりのある仁王経や最勝王経とは違って、民衆が厄払いや願掛けなどのために祭事として残すケースが多いという。奈良の興福寺全国、至る所に大般若経は残っているようだ。ただし、日本語学者が喜ぶような書き込み(訓点)がついているものは、1/100程度であるという。今回調査した文献はまさにその1/100であって、貴重なものだった。
それはそれとして、印象に強く残ったのは、博物館や文庫ではないお堂に残した文献の保存状態が非常に良かったことだ。虫食いやカビによる破損がほとんどない。
地域では古来から旧暦の7月に転読を行う。これが文献の側からみれば、虫干し、風通しの役割を持つようだが、それだけでこんなに保存状態が良くなるものか。近代的な設備で温度や湿度が管理されていても、状態が悪くなることだってあるのに。
しかし考えてみれば正倉院だって、最初から近代的な設備だったわけではない。適切な風通しや虫干しだけでも、これだけの状態がキープされる。和紙とは保存に向くものであるということがよく分かった。