この作品の翻訳には思いいれがあるので、ここでだけ語らせてください。この仕事を始めてから修練を重ねてきたエンターテインメント翻訳の技法にくわえ、この10年ほどは中国SFの仕事でも新しい経験を積ませていただきました。さらに個人的に読んできた本の影響や、これまでアイデアはあっても試す機会がなかった実験的な翻訳技法など、まさに全部入りでできたのがこの『鋼鉄紅女』の翻訳です。翻訳業のキャリアのなかでいまだからこそ可能でした。その意味では(めざしてきたわけではないので、まったく結果的にですが)、これを訳すために自分の翻訳者人生はあったのかもしれないとさえ思います。